【以前UPした ”亀吉の独り言” をリメイクし、”おはなしこんばんは” として再投稿しました】
”亀吉君” という名の亀さんがいたんだとさ。
吾輩は亀である。名前はいつの頃からか ”亀吉” と呼ばれている。吾輩がこの家にやって来たのは、ご主人のお子さんが小学生の頃だったので、かれこれ30年程にもなるだろうか。
吾輩の出生は定かではないが、聞くところによると、お祭り屋台説とペットショップ説の二説が最有力とのことだ。当初は妹の亀子と共に引き取られたが、程なく亀子は天国へと召されて行った。
亀子も吾輩も初めは五百円玉程の小さな小さな体だったから、亀子にとっては食事が合わなかったのか、水が合わなかったのか、もしかしたら寂し過ぎたのかも分からない。
なにさま幼過ぎたので、自分のことで精いっぱいの吾輩には、亀子がいなくなったことも、更には死ぬことの意味さえも理解できてはいなかった訳で、なので特段悲しいと思った記憶はない。
それから今日に至るまで、引っ越しを経てもなお、この小さなプラスチックケースが吾輩の世界であることに変わりはない。ケースの底から見上げる四角い空が吾輩にとっての全宇宙なのである。
一度脱走を試みて、ほんの数メートルだけ外の世界を感じてみたが、上手く歩けないのですぐにご主人に連れ戻された。そんなこともあった。
若かりし頃には、仲間のいるであろう外の世界で、自由に暮らしてみたいと思うことも幾度かあったが、今となってはここでの暮らしもまんざらではなかったと思う。
こんな小さな世界だけれど、灼熱の夏、寒風の冬、四季の移ろいもダイレクトに感じられる。(ちょっとぉ、それって居心地悪いってこと?)誰かにいじめられる心配もないし、落ち着いていられるんだ。一度など大寒波の影響で氷漬けになりそうな怖い目に合い、ご主人に救出されるなんてこともあったが、秋には虫の音も聞こえ、お日様やお月様のことだって吾輩は良く知っている。時には四角い夜空を流れ星だって横切って行くのだから。
ご主人の子供達が早々に吾輩に興味を失った後も(良くあるパターン)ご主人は欠かさず吾輩の世話を続けてくれた。
”キョーリンの亀の餌”(大きな亀用)も毎日美味しく頂けるし、夏場は蚊に刺されながらの毎日の水替えに加え、吾輩が暴れるのでとても面倒な甲羅のたわし掛けも、吾輩の健康維持に欠かせない大切な仕事だ。 ☜ (ココ明日の試験に出ます)
ある時、ご主人と帰省した娘さんが話しているのを聞いたことがある。
ご主人が、「亀の寿命は万年と言うから多分逝くのは私が先だろう。もしそうなった時には亀吉は近くの川か、お城の池に放してやってくれ」と言うと、娘さんすかさず「そりゃ環境破壊になるからダメだよ、その時は私が引き取るから安心して」と。
確かに、”池の水を全部抜く”なんて番組では吾輩にそっくりのミドリガメとか言うやつらが、外来種として邪魔者扱いされるとの噂も聞いたことはあるし、娘さんの気持ちもありがたい。(干されてその後、果たしてやつらの運命やいかに ”恐”)
でもな~、娘さんは遠くのもっと大きな町に暮らしているらしいし、既に猫が三匹も同居中で手一杯、都会だから、きっと家々が窮屈にひしめいているはずなんだ。小さなケースとは言っても邪魔に決まってるさ。だいたい吾輩は住み慣れたこの場所の水や澄んだ空気が、そして何よりご主人のことが大好きなんだ!☜ (ココも絶対試験に出します)
だからこの先も、出来ることなら吾輩はずっとここで、この小さなケースの中で穏やかに暮らしたい。
だからこの先も、出来ることなら吾輩はずっとここで、この小さなケースの中で穏やかに暮らしたい。
そしてその時が来て、もしもご主人がお許しなら、後に従って一緒に赤い橋を渡りたいと思ってるんだ。
そう語り終えると、”亀吉君” は目をつぶり長い首を甲羅に沈めたんだとさ。
何てこと言うんだよ亀吉、そう言ってくれるのは嬉しいが、駄目なんだよねー亀吉。
渡る橋の色は同じでも、お前は左の天国行へと続く赤い橋、私は右の地獄行きの赤い橋なんだからね。
だって、お前をこんな所に一生閉じ込めたのは私なんだから。
ごめんよー亀吉。
ケースは玄関先にあるので、宅急便のお兄さんも必ず覗いていきます (*^^)v
我が家のリアル、
きっと ”亀吉君” はこんな気持ちでいてくれているはずです。
きっと。多分。もしかして。かも知れない。---。かな? (;^_^A